月の森俳句会

今週の十句(四月第二週)

初氷溶けて時間の戻る音 富澤秀雄
氷が元の水に戻るきらめきの音

今朝の冬此の頑固なるパンの耳 一門彰子
初冬の寒さの感覚をパンの耳に捉えた

雪起し眠れぬ夜のベッド鳴る 岩本光子
雪起しは雪国の雷のこと。ベッドと呼応している

沈丁花名前変わらぬ地下喫茶 上西眞知子
コーヒーの香と郷愁が満ち溢れている

追分の風ののれんやむかご飯 江南富貴子
追分の地名がむかご飯の味わいを引き出している

頑な少女の横顔冬木の芽 岡谷康子
頑な少女と冬木の芽もやがて解ける季節を予感

春浅し見知らぬ人に会釈され 岡田清子
初春の万物が蠢く感覚を醸し出している

稜線に日の沈みゆく穴まどひ 加藤隆子
夕暮時の蛇の焦りのようなおかしみがある

解体現場は片言ばかり日短 木原由美子
最近の外国人労働者の働く現場の一場面

春浅し最中の皮の脆く散る 岸上紀子
早春のものの芽が解ける明るい風景