初氷溶けて時間の戻る音 富澤秀雄
氷が元の水に戻るきらめきの音
今朝の冬此の頑固なるパンの耳 一門彰子
初冬の寒さの感覚をパンの耳に捉えた
雪起し眠れぬ夜のベッド鳴る 岩本光子
雪起しは雪国の雷のこと。ベッドと呼応している
沈丁花名前変わらぬ地下喫茶 上西眞知子
コーヒーの香と郷愁が満ち溢れている
追分の風ののれんやむかご飯 江南富貴子
追分の地名がむかご飯の味わいを引き出している
頑な少女の横顔冬木の芽 岡谷康子
頑な少女と冬木の芽もやがて解ける季節を予感
春浅し見知らぬ人に会釈され 岡田清子
初春の万物が蠢く感覚を醸し出している
稜線に日の沈みゆく穴まどひ 加藤隆子
夕暮時の蛇の焦りのようなおかしみがある
解体現場は片言ばかり日短 木原由美子
最近の外国人労働者の働く現場の一場面
春浅し最中の皮の脆く散る 岸上紀子
早春のものの芽が解ける明るい風景