仏前のあらぬほう向く扇風機(扇風機に仏心はなく勝手気ままに)
富澤秀雄
林檎むく他言無用のしずかな刃(刃物を前に他言無用と言われれば抗えず)
一門彰子
筆跡で浮かぶあの顔秋深む(人それぞれの書き癖があり、それとわかる関係)
西田美智子
終戦日口にひと粒パインあめ(終戦の思い出の苦さと平和の甘さの対比)
延原ユキエ
名君の呼ばれし藩主悪なすび(領民からは名君と呼ばれいるが裏の貌はさて…)
橋本昭一
ひとり笑いの声におどろく冬至きて(自分の声に驚くほどの静寂な空間)
政野すず子
赤とんぼ防虫ネットに遊びたる〈赤とんぼは人が好きそして遊び好き〉
三船多美子
筆まめのまめを重ねて菊日和(絶えず返事はメールではなくお手紙で)
森川明美
同窓会ツーさん稲刈り真最中(同窓会に来れなかったツーさんの人柄が…)
山口美野子
蓑虫鳴く久々に見る父の夢(殻にこもる蓑虫の姿を無口な父の姿に重ねて)
山﨑よしひろ