花すすき風の呆けるデンデラ野(デンデラ野は遠野の姥捨の地。すすきも呆けるよな)
富澤秀雄
黙読の耳やわらかく草雲雀(黙して書に耽る折は耳をやわらかくして虫の音を)
一門彰子
青葉木菟と目の合ってより不眠症(梟とは目を合わさないようにしよう眠るため)
西原千津子
ゆるやかに疎遠という坂 栗に傷(人と次第に疎遠になるとは栗に傷あるごと)
山口砂代里
秋袷まだ手放せぬ亡母のもの(母の遺愛の袷は、捨てられず手元に母の温もりを)
岸上紀子
筆まめの叔母から梨と「生きてるよ」(陽気な叔母の姿が見えて来るような気分)
岡谷康子
手のひらは優しき器水の秋(秋の水を優しく掬う掌は、また美しい器となる)
中森京美
風船かずらおずおず嬰の歩巾かな(赤ん坊のよちよち歩きの歩は微笑ましい)
加藤隆子
故郷は駅のない町鳥渡る(故郷に駅はないけれど美しい景観を持っている)
木原由美子
水引草ほろりこぼれて風の粒(水引草の穂先から零れるのは風の粒だったとは)
小西清子