本籍地はただの原っぱ蚯蚓鳴く(本籍地に家もなくただ草の繁茂する淋しい心の空虚)
富澤秀雄
句座は沸騰鯛焼きの餡の量(句会での喧々諤々の様子を鯛焼きの餡の暈と熱に重ねた)
一門彰子
冬木立ぶれるこころの置きどころ(信念を貫く難しさ。ぶれる心を冬木立に預けた)
西原千津子
洗面器に沈黙の音震災忌(震災の恐怖の体験を朝の洗面の黙に重ね合わせて想起)
山口砂代里
幸せと思えばしあわせ山眠る(人生の生き方は力を抜いて生きること肝要と吐露)
岸上紀子
寒鴉私が人である不思議(たまたま輪廻で人間に生まれたと寒鴉に問い掛ける)
岡谷康子
湯豆腐のぷるぷる煮えて話下手(湯豆腐の震えほどの話し下手の人の緊張感)
中森京美
譫妄の夫に相槌コート脱ぎ(病院で意識朦朧とする夫への愛情の相槌とは悲しい)
三船多美子
十年日記の最後のページ除夜の鐘(十年日記の最後を書き記すのは除夜の鐘)
森川明美
野暮用のあるにはあるが置炬燵(心地よい炬燵から出られない言い訳は野暮用とは)
山口美野子