忽然と現るものに蛇と虹(誠に蛇も虹も思いがけない時に現るものだ)
富澤秀雄
立ち位置と視点の相違羽抜鶏(羽抜鶏は己が姿を見んとあらぬ方を向く哀れ)
一門彰子
青水無月バス乗り継ぎて海の町(思い出の地を訪れるには、遥かな道程がある)
田山嘉容
空蝉のまだ新しきふたつの目(羽化した直前の殻は、まだ濡れていている)
圡田桂子
余白には死後の年表沙羅の花(生前の自分史に死後の年表も書き加える)
寺田伸一
たんぽぽの絮も乗車里帰り(たんぽぽの絮も郷里の旅に同行したかろう)
名村幸子
紫陽花の色に迷えし我が心(紫陽花の色と渦に迷う深い悩みのひと時)
西 幸子
夏の海塞がってゆくピアス穴(ピアスの穴が塞がるのは夏の思い出と共に)
西田美智子
かぶと虫見ていて情緒不安定(かぶと虫のぎこちない動きをみて情緒不安定)
延原ユキエ
蟬声に確かな訛り朝餉時(蝉の鳴き声に訛があることに気付くとは…)
橋本昭一