啄木鳥のモールス信号キ・ヲ・キ・ル・ナ(最近の森林伐採に警告の声)
富澤秀雄
火恋し書架に「それから」「日の名残り」(幅広いジャンルの書を楽しむ秋の夜)
一門彰子
分校は徒歩で四キロ赤とんぼ(季語を活かした郷愁溢れる情景を描く)
西原千津子
雁来紅人は晩年ひとを見る(年を経るごとに人間観察が鋭く深くなる)
山口砂代里
石橋をゆっくり渡り冬が来る(石橋への足の触感と冬の皮膚感が重なる)
岸上紀子
葡萄食む足りない何か探りつつ(満ち足りないものを葡萄を食む感覚と合せた)
岡谷康子
恙なく生きた道のり尺取虫(しみじみと来し方を思っている人生達観の境)
中森京美
出家して隠元豆の弟子になる(思わず微笑がこぼれるユーモア溢れる1句)
延原ユキエ
袋小路の増える町並曼珠沙華(都市化が進む取り残された路地の景)
橋本昭一
秋空や病室白し生きている(生きてゆく自己の意思を強く白で表した)
原尚子